◇ ヤマタネ持続可能な稲作研究会⑤ 河原田副社長「米産業の将来は明るい」

 ㈱ヤマタネ(東京都江東区、山﨑元裕社長)が開いた第1回持続可能な稲作研究会(2月9日)の続報。終了後の記者会見で、次期社長に内定している河原田岩夫副社長が、研究会であがった米産業の将来を危ぶむ声に対し、「私は非常に明るいと思う。米業界にいる皆さんの想像以上に、外の人はこの業界にビジネスチャンスを感じている」と語った。

〈閉会挨拶〉寺田忠夫執行役員食品本部長

 「振り返ると、萌えみのり栽培コンテストが始まった11年前、同じような社会的課題は恐らくあった。にもかかわらず、何をやっていたのか、全く手を付けていなかったのが現状として反省すべき点だと思う。これまでの10年と、これからの10年のスピードは変わると思う。様々な解決策、ソリューションが出来てきたなかで、弊社もパートナー会社と手を組むことで、皆さま(生産者)の課題解決ができる仕組みづくりと実践をしてきている。これから我々社員が産地にお邪魔するかもしれない。その時は皆さまの課題を、是非とも弊社の社員にお伝え願いたい」。

〈終了後の記者会見〉
 参加者:ヤマタネから山﨑元裕社長、河原田岩夫副社長、寺田忠夫執行役員食品本部長。産地から佐藤誠一氏(秋田ふるさと農協組合長)、鈴木千世秀氏(新みやぎ農協副組合長)。

 ――現在の多収穫米の品種構成と、今後の具体的な計画は?

 ◇ 寺田執行役員食品本部長 萌えみのりが7割、その他品種が3割。にじのきらめきは、令和5年産まで試験段階のため、1割もない。しふくのみのりは、令和6年産から作付を拡大していくことから、数%~10%強になる見込み。いままでは作付ができなかった、ないしは作付しても非主食用になってしまった関係があり、なかなか伸びてこなかった。なので令和6年産~令和8年産の3か年計画では、令和2年産、令和3年産レベルまでにしたいと考えている。

 ――今後も猛暑が続く可能性があるなかで、どのような高温対策を行っていくのか?

 ◇ 鈴木新みやぎ農協副組合長 昨年、猛暑による影響を心配したが、蓋を開けてみると、1等比率が90%以上だった。収量も変わらず、実績が約95万俵と、目標の100万俵に近かった。品質や収量も変わらなかったため、高温対策は今のところ採っていない。ただ大規模農家は、にじのきらめきにシフトしていくと思っている。

 ◇ 佐藤秋田ふるさと農協組合長 萌えみのりがいもち病に弱いため、作付面積が減ってきている。令和6年産は100町歩の作付が決定している。栽培では、水の確保が一番の問題だった。技術面では、昨年の結果が良かったケースを検証していく。全体で110万俵を扱っているなかの100町歩なので、これから、しふくのみのりを中心に拡大できればと考えている。

 ◇ 寺田執行役員食品本部長 歩留まりは、平均で見ても令和4年産より2ポイントほど悪かった。当社の精米工場でも製品化するのに苦労している。これは令和5年産だけのことではなく、令和6年産も同じステップを考えないといけないので、生産者には品質についてお願いしていく。一方で、当社に高温耐性品種の開発を要望する声もある。ただネックとなるのは、世に出るまでに通常だと10年かかること。はたして、そのスピードが今の時代にマッチしているのか。マッチできない期間だと思うので、開発期間を短くできるような考え方にしていかなければならない。

 ――ヤマタネ多収穫米は近年、生産量や生産者は増えているのか。また販売チャネルに変化はあるのか?

 ◇ 寺田執行役員食品本部長 農協の参加数は、今のところフラット。急激に増えたのは5~6年前で、生産者数も総体としては、生産者数が減っているなかで、フラットな状態が続いている。作付面積は、徐々に大きくなってきてはいるものの、主食用米は減っている。生産者の皆様は国の目標面積に対して敏感で、これを守る方が多かったため、主食用米のボリュームが減ったと見ている。「萌えみのりではなく、しふくのみのりにしよう」という品種を変える取組みが、単協で進められてる。販路は、主にスーパーのボリュームが増えている。よくスーパーで見かけるようになった。

 ――絵に描いた餅かもしれないが、生産者の課題を解決した米産業の展望は?

 ◇ 山﨑社長 これから最も注力しなければならないのが、まさにそこなのだが、今は”餅の絵”を描いてみようというタイミングだ。これまで”餅の絵”を描くことすらしなかった。閉会挨拶で寺田(執行役員食品本部長)が、「課題は10年前にもあったのだが、手を付けていなかった」と発言したが、事実そうだろうなと悔やむところ。例えば、今年なら「令和5年産はどうか」といった対応に追われ、なかなか取り組めなかったと思う。萌えみのりの取組みは、多収穫をやろうと思ったわけではない。「今年は1俵いくら、来年はいくら」ではなく、もう少し腰を据えた取組みを、業界として、生産者と実需者を巻き込んでやろうというのがスタートだった。そこで分かりやすかったのが、1単位面積あたりの「売上を上げること」「コストを下げること」。結果として多収穫への取組みにつながった。狙っていたのは、より魅力的で強い稲作にしていくことだった。
 では”絵に描いた餅”はどんな形だったら良いのか。やはり人の問題がある。生産者はもちろん、我々の米流通業界も同じ。業界そのものが疲弊し、衰退している。このままでは、人が来なくなる。産地だけではなく、米屋に魅力がないと人が来ない。米流通全体で魅力を高めていこうと思っている。一つは、やりがいのある魅力のある世界を描きたい。もう一つは、収入が伴わないと、絵に描いた餅だけでは生きてはいけない。この方策を整えようと思っている。取り組むべきことはいろいろと見えてきている。
 この研究会の一番の根っこは、我々の発表ではない。生産者同士が直接情報交換すること。何かしら持ち帰りしてくださってきた10年だったし、これはもっと加速させる必要があると思っている。実需者が求めているのは、産地がどういう取組みをしているのか、また、それにより5年先、10年先も安心して米を届けてもらえるというストーリー。我々がやるべきことは、その間を繋ぐこと。そして効率以上に確実に効果が上がる仕組みをどう構築するか。一年一作の米なので、同時にいろいろな施策を打ってみて、どれが有効かを模索すること。これは業界全体で取り組まなければならない課題だと思っている。

 ――令和4年(2022)に現職に就いた河原田副社長とヤマタネのこれまでの関り方は? この1年、ヤマタネのビジョンに必要な出資、業務提携、子会社化が具体的に進んできた。河原田副社長の役割が大きかったのでは?

 ◇ 河原田副社長 私はこれまで三井住友銀行におり、平成23年(2011)~平成25年(2015)の2年間、ヤマタネを担当する部署の部長をしていた。今から13年前に山﨑社長と知り合い、銀行員としてヤマタネに関わっていた。その後、16年間ほど地方勤務をしており、地方創生や地方活性化への取組みに関わってきた。地方創生は、やはり第一次産業が元気にならないといけない。これをどうすべきかがライフワークとなっていたのもあり、ヤマタネとは以前のご縁もあって令和4年(2022)に入社した。すると、それまでの銀行員生活でライフワークとしていた地域産業、地域活性化が、ヤマタネのフィールドでできるのではないかと。山﨑社長とも意見が一致し、この2年間、出資などを相談しながら進めてきた。
 先ほど、米産業の将来の話があったが、私は非常に明るいと思う。米業界にいる皆さんは「どうなんだろう」と言うが、皆さんの想像以上に、外の人はこの業界にビジネスチャンスを感じている。ヤマタネと組みたいとおっしゃる。ヤマタネは産地との繋がりが強いので、産地の課題解決に向かって一緒に取り組みたいという方がたくさんいる。当然、玉石混合なので見極めもしっかりしながら、外の人たちを巻き込むよう進めていく。そのためにも、我々ももっと産地の課題を把握し、ソリューションを届けていく。この社会課題に取り組まないと、ヤマタネが100年の間、米を扱ってきた価値がなくなると思っている。

 ◇ 山﨑社長 今日のこの短い時間でもご理解いただいたと思うが、暑苦しいくらいの男なので(笑)、取組みは加速していく。自ら産地にも足を運び、持続可能な稲作への取組みの間口も広がるし、奥行きも出てくると思う。私がしなければならないのは、邪魔をしないこと。

 ――今回の受賞者に対する感想や評価は?

 ◇ 寺田執行役員食品本部長 受賞された方々は、猛暑の中でも努力した成果が出たものと認識している。データを見ても分かる通り、全体的に品質は数値として出るものなので、令和4年産より若干厳しい結果が如実に表れた。決して手を抜いているわけではなく、水の供給がなかったり、水が温かくなりすぎてしまったりと、様々なことがあったと聞いている。生産者の方々はプロなので、プロなりの仕事をするなかで、令和5年産の反省を踏まえて、令和6年産の生産を進めてもらえると思う。

 ――日本米の海外普及に対する考えは?

 ◇ 山﨑社長 多収穫米は、生産者の収入を考えている。食料問題までは考えていない。今回のタイトルでもあるが、(稲作を)ずっと続けていただかないと困る。そうしないと、本当に日本の食料問題になってくる。現状、足元を見ると米が余っているかもしれないが、徐々に変わってきていると思う。今の子どもたちは、例えば東京都だと、学校給食のごはん食が週4日を超えている。この効果は出てきており、子どもたちの「ごはん好き」が増えてきている。人口のバランスなどを考えると、どうしてもまだまだ(米の消費量は)落ちてくるが、それでもブレーキがかかり始めるのではと期待している。とはいえ、現状は米は余っているものの、一気に米不足になる可能性もある。対策として、水田機能を維持しなければならないし、生産者が(稲作を)続けていける仕組みを作らなければならない。
 出口の一つには輸出があると思っている。ただ輸出も様々なことを考えてないといけない。良い米は、良いごはんになるポテンシャルを持っている。だが良い米を輸出しても、現地の水や炊飯方法で良いごはんを作ることができるのかは別問題。また白いごはんを有り難がって食べるのは、日本以外にどれだけの国があるのか。日本米を海外に持ち込んだら、たぶんオーバースペックとなる。もちろん、特定の富裕層が買ってくれるマーケットもある。極論だが、日本でインディカ米を作って輸出してもよい。マーケットは広い。米粉にして輸出してもよいし、米粉を使った商品にしてから輸出してもよい。世界の食料を救うためではなく、日本の農業を守るためにやらなければならないと考えている。

 ◇ 河原田副社長 輸出はマーケットが広いのだが、当然、各産地とのグローバル競争となる。生産のプロはたくさんいらっしゃるが、グローバルに考えると、経営のプロでもなければならない。原価を下げないとグローバルで戦えないので、経営のプロを育成することに、ヤマタネがどう貢献できるのかも、大きな要素かと。

 ◇ 山﨑社長 価格形成の仕組みが、まだまだ変わってきていないと思っている。全農の概算金で決まってしまっている。時間が相当かかると思うが、全農ルートではなく、各社の独自ルートの栽培が増えてくれば、概算金の力も弱まる。現状の価格は、概算金ベースからは上がったと思うが、全体的に米価が高いとは思っていない。価格変動リスクへの対応は、ヤマタネが使う使わないを別として、先物市場は絶対に必要だと思う。なぜ試験上場を繰り返しながら本上場までいかなかったかというと、マーケット規模が違った。現物マーケットに対しての先物マーケットの規模感がどうしても足りなかった。これから先は、海外投機家も呼び込むくらいの構想にしなければならないと思う。商品品目は「秋田こまち」や「新潟コシ」ではなく、「うるち米」「もち米」「ジャポニカ」「インディカ」くらいの仕分けに整えるしかない。あとはプレミアムなところを追加していけばよいし、そういう市場であるべきだと思っている。

〈了〉