㈱ヤマタネ(東京都江東区、山﨑元裕社長)が開いた第1回持続可能な稲作研究会(2月9日)の続報。㈲横田農場(茨城県龍ケ崎市)の横田修一代表が「持続可能な農業」をテーマに講演した。利益が出なければ持続できないと指摘し、横田農場が取り組むコスト削減法を披露した。
○ 当社は、役員が父親と私の2名、社員が母と妻を含めて9名。利根川の近く、比較的低地で湿田が多いこともあり、米しか作ることのできない地域で営農している。主な事業は、水稲の生産・販売と、米粉加工品の製造・販売で、令和5年産の作付は169haだった。平成8年(1996)に法人化して、私は平成10年(1998)に入社。平成25年(2013)には農林水産祭天皇杯を受賞し、令和元年(2019)からはスマート農業実証プロジェクトに参画している。
○ 本日のテーマである「持続可能な農業」とは、分かっているようで分からない。私自身、「説明しろ」と言われても難しいので、ChatGPTに訊いてみた。すると、4つの利点を教えてくれた。1「環境保護」、2「食料安全保障」、3「社会的な利益」、4「経済的持続性」。今日は、特に4「経済的持続性」について話をするが、そもそも利益が出ないと持続はできない。
○ 当社はこれまで、コストカットに取り組んできた。例えば、田植機1台、コンバイン1台だけで全ての水田を管理している。少ない機械でコストを抑えることで、機械にかけるコストは、全国平均の半分ほどで済んでいる。また肥料は全量鶏糞を使用することで、これも全国平均に比べ3割ほどまでに抑えている。ほかにも当社の特徴は、圃場が2.5㎞四方に集約している点がある。田んぼは計414枚で、最大2.5ha、最小3a。1ha以上が7%、20a未満が39%という割合になっている。「結構まとまっているね」と言う人もいれば、「点在しているね」と言う人もいるが、私はまとめていると思っている。だが実際は、集約したものではなく、消極的な規模拡大によるもの。実は当社は、積極的に規模拡大をしようと思ったことは一度もない。
○ この地域は、東京まで50㎞と、いわゆる通勤圏内となっている。なので地元に残って農業をやろうという人は、ほとんどいない。私は間もなく50歳になるのだが、この世代でも農業をやろうなんて人はいない。上の世代となると、父親の世代になってしまう。では辞めていく人は、田んぼを誰に頼むのかというと、「横田さんやってくださいよ」となってしまっているのが現状。私の意向にかかわらず、結果的に集まってきてしまったのだ。
○ 圃場面積は、平成8年(1996)の法人化以降、令和4年(2002)まで増え続けてきている。平成14年(2002)頃からは、地元の圃場整備事業もあり勢いよく増え続け、毎年5~10ha、多いときは15haほど増えた年もあった。一方、圃場数も比例して増えていったのだが、平成27年(2015)頃から鈍化。いま作っている田んぼの隣とか、飛び飛びになってる田んぼの間にある田んぼだったりするので、1枚にまとめてしまうことで圃場数は増えなくなった。
○ 当社の特徴の一つに、先ほども紹介した「田植機1台、コンバイン1台」がある。当社では8品種を作付することで、作期を拡大し順応している。令和5年産で言えば、田植機は56日間稼働、コンバインは60日間稼働していた。1日の平均作業量は約2.8haだった。
○ 次の特徴は、自律分散型組織であること。従業員数は、平成24年(2012)以降、増えてはいない。にもかかわらず、規模拡大に対応できている。組織は大体、ピラミッド型の組織になっている。社長がいて部下がいてと。だが当社は、そのような形はとっていない。あえて目指したわけではなく、自分たちがやりやすいようにやっていった結果、それぞれが自らの状況を観察し、判断し、行動し、連携する組織になった。毎年のように圃場規模が拡大していることや、気候変動など、父親も私も経験したことのないことが起こっているなかで、従業員同士が「もっとこうしたら良いのじゃないか」「それちょっと違うんじゃないか」といった議論をしながらやってきた。様々な環境の変化に順応できる、柔軟な組織構造。多様な意見を取り込める組織の風土。実はこれが、当社の一番の強みではないかと思っている。
○ 先ほども触れた肥料費削減は、鶏糞の使用が大きく、慣行栽培の半分以下になっている。ほぼ全てが特栽の水準になるので、付加価値をつけて高く売るということもあるが、それよりも当社では、コスト削減のほうが大きい。また令和4年産は、化成肥料が高くて買えなかったり、お金を出しても買えなかった状況だったが、鶏はコロナ禍でも糞はするから調達に困らなかった。海外の化成肥料に依存することもないので、持続性も高まる。
○ 農薬費削減も進めている。当社は、できるだけ使わないようにしていて、全国平均の3分の1ほどのコストに抑えている。除草剤などは、気持ち的には一番高級で何にでも効くような剤を使った方が良さそうだが、当然、高くつく。だから田んぼに行き、どこにどの程度、どの草があるのか調査し、草に合った除草剤を必要な分だけ使っている。病害虫は、ホームセンターで売っている200円ほどの直径40㎝の網を買い、20振り。入った虫の数で、防除するか決めている。かなりアナログなのだが、必要な圃場に必要な分の農薬を撒くことが、最もお金のかからない方法。重要なのは、観察と判断なのだ。
○ ChatGPTをあまり信じてはいけなのだが、先ほどの問いからさらに、「持続可能な農業」は他にも利点があるのか訊いたところ、さらに4つの利点をあげてくれた。この3番目に、「気候変動や自然災害などの変化に対する農業システムの適応能力を向上させる」とある。要は、気候変動や自然災害といった変化に適用しないとダメだということ。当社も、台風災害などで収量が落ちたりした。だが、いろいろなデータを集めて、農研機構と解析し、改善をすることで収量を増やしてきた。令和5年産は、猛暑のなかでも過去最高の単収だった。今まで一生懸命データを集めて改善してきたことが、うまく機能したと自負している。
〈続〉