◇ ヤマタネ持続可能な稲作研究会② 山﨑社長「足の引っ張り合いはやめよう」

 ㈱ヤマタネ(東京都江東区、山﨑元裕社長)が開いた第1回持続可能な稲作研究会(2月9日)の続報。「持続的営農実現に向けた課題と求められる取組み」をテーマに、山﨑社長、河原田岩夫副社長が登壇し、生産者らとパネルディスカッションを行った。このなかで山﨑社長は、米流通業界で価格転嫁が進まない現況を巡り、「生産者と同じく、米流通業者、業界も魅力的でないと、人が来なくなる。なので、我々は『もうくだらない足の引っ張り合いはやめよう』と話している。それぞれが自社の人件費を上乗せした価格を、通せるようにしていく流れになってきていると思う」と述べた。

 登壇ゲストは、三浦幸氏(㈱ベジリンクあきた男鹿理事)、石川和彦氏(新宮城農協 栗っこ多収穫米生産部会長)、柿崎大二朗氏(秋田ふるさと農協代表理事専務)。山﨑社長は登壇ゲストで、河原田副社長はファシリテーターとして登壇した。

左から、河原田副社長、三浦幸氏、石川和彦氏、柿崎大二朗氏、山﨑社長

【収益性】
 〈河原田副社長〉農業の魅力は結局のところ、最後は「収益性」。儲かれば人はやってくる。皆さんの経営もそれぞれ。この「収益性」についてどう展開しているのか。
 〈三浦氏〉メインの水稲と夏場のメロンで収益全体の60%ほど。これを崩さないよう、安定的に穫れるようにしている。加えて最近は、40haあった大豆を転換し、収益性の高い作物を作っている。今年は玉ねぎに12ha分転換したものの、今のところ満足できる収益には繋がっていない。品目を変えれば、生産技術や人手の問題が起こる。毎年いろいろと課題は出てくるが、収益性を確実に上げていく研究を行っている。
 〈河原田副社長〉ヤマタネでお役に立てることがあれば、なんなりとお寄せいただきたい。
 〈石川氏〉米一本なので、コロナ禍で価格がとんでもないことになった。その辺りから激動の3~4年だった。昨年は、肥料が1.5倍になったり、光熱費などのコストが上がってばかりだったが、米の世界は不思議と値上げできない。我々はコストダウンするしかない。肥料高騰対策では、耕畜連携、循環型農業が参考になる。同じ管内のササニシキ生産者では、化成肥料は使わず、堆肥のみ。遅くまで水を切らさなかったこともあり、令和5年産は全量1等米、収量は反収7.5俵だった。全ての方ができるかどうかは別にして、このような実績をあげている方はいる。
 〈柿崎氏〉気象災害に強い産地作りがテーマの一つとなる。「大雨や暑さにも対応できるような指導を行っていこう」と、米穀や畜産、園芸などの課から有効であろう施策を出してもらい、年度計画に盛り込んだ。稲作部門では、基本に立ち返った作り方として、進行を少し進めてもらうことで、根の張りを強くして、暑さに負けない株にする。また高温下で最も効果があったのが系統資材の活用だったので、令和6年産も積極的に推進していく。
 〈河原田副社長〉収益性を販売面から、全米販副理事長としての山崎からコメントを。
 〈山崎社長〉皆さん(生産者)に対して本当に申し訳ないのだが、われわれ流通業界の段階で、独自性を持っている販売業者がいない。結果、「どこどこ産のなになに」と、同じものを担いでいるため、価格競争に陥ってしまう。また様々な食材が値上がりするなか、「米くらいは値上げをしてくれるな」というバイヤーからの強い意向もある。これらのことが重なって、皆さん(生産者)に自信を持って「売ってきました」とは言いにくい状況が続いている。これからは、適正価格をめざす。われわれ流通段階でも、物流コスト、エネルギーコスト、資材費が上がっている。中小企業では、資材費などの価格高騰分の7割ほどが転嫁できたという数字が出ているが、人件費はほとんどが転嫁できていない。生産者と同じく、米流通業者、業界も魅力的でないと、人が来なくなる。なので、我々は「もうくだらない足の引っ張り合いはやめよう」と話している。それぞれが自社の人件費を上乗せした価格を、通せるようにしていく流れになってきていると思う。

【規模拡大】
 〈河原田副社長〉皆さんは規模を拡大し、販売品目も含めて増やしていこうとしているのか。
 〈三浦氏〉来るもの拒まず(笑)。実際、スタート時点から農地は5倍ほどになっている。収益も5倍になったら良いのだが、残念ながら。
 〈石川氏〉規模をどんどん拡大しようと思っているが、増えた従業員分の給料を払わなければならないし、設備投資するにも、今の利益がない状態では大変。「機械を買うために田んぼを増やす」という本末転倒な話も。これだけ利益率が下がっているため、コストダウンをできる限りやってはいる。だが、薄利多売のなかで、とにかく規模を増やさないとやっていけないという生産者はかなりいる。
 〈柿崎氏〉石川さんのお話の通り、設備投資に対する負荷は同じ状況。30歳代の若手の法人経営者も増えてきて、意欲的に乾燥調製施設を建てたいと言ってくれるのだが、負担はとても増えている。管内にはCEとRCがあるのだが、利用率は100%を超えており、単協だけでは受け容れられない。そこで若手生産者さんに受け容れをお願いして、自分たちの農地以外の乾燥も引き受けてもらっている。利用料を払うことで、お互い支援し合う形でやっている。

【高温耐性品種】
 〈石川氏〉昨年の猛暑の影響が出ている。昨年が異常な年であれば良いのだが、これが当たり前になったら大変なことになる。令和5年産の作柄で、例えば山形雪若丸は、高温耐性品種で1等比率が90%近い。つや姫は60~70%。宮城は高温耐性品種がなく、忸怩たる思いがあるのだが、ヤマタネさんにお願いをしたい。萌えみのりは持続的な点では魅力的だが、気候変動などに対応するために、高温耐性品種もそうだが、第2の萌えみのり、第3の萌えみのりをどんどん作り、モデルチェンジしていかないと対応できなくなるのではないか。非常に危機感を持っている。
 〈山崎社長〉ご指摘の通りだと思う。品種の問題かもしれないし、農法かもしれない。この辺りは研究していこうと思っている。かなりスピードが求められるので、場合によると、先ほどは「卸の足の引っ張り合い」と表現したが、業界としても同じベクトルを向いて、いろいろな圃場をいろいろな地域で、我々の横串を刺しながら、1年に様々なパターンを勉強することで時間の短縮を図りたいと思っている。

〈続〉