◇ 全米販「令和5年産米をめぐる米穀流通業界の苦境にご理解を」会見

 全米販は10月16日、東京・日本橋小伝馬町の食糧会館に一般紙・業界紙の記者を集め、会見を開いた。同日に公表した「令和5年産米をめぐる米穀流通業界の苦境にご理解を」をめぐるもので、全米販が単独のテーマで記者会見を開くのは今年度初。
 全米販からは木村良理事長が対応。プレス側からは、朝日新聞社、河北新報社、共同通信社、時事通信社、商経アドバイス、食品産業新聞社(米麦日報)、日本経済新聞社、日本農業新聞社、日本放送協会(NHK)、米穀データバンク(米穀市況速報)、毎日新聞社、全国農業共済協会(農業共済新聞)、農協協会(農業協同組合新聞)、読売新聞社の14社14名が出席した。概要は以下の通り。

【冒頭挨拶:木村理事長】
 本日は、米の流通業界の実情についてお話ししたく、お集まりいただきました。昨年度も米穀流通業界の苦境について、会見をしました。今年も、昨年に続き、同じようなご理解を賜ることが必要な時期、状況になってまいりました。
 今回の精米加工、輸送などにかかる諸経費の高騰、そして令和5年産の原料代の高騰について、取引先である量販店、中・外食事業者の皆さまにご理解をいただきたく、資料をもってお願いをさせていただくのと、各団体に資料を届けさせていただきました。
 諸経費の高騰というのは、物流関係、包装材料関係、燃料関係に及びます。高止まりしているものもあれば、下がっているものもありますが、組合員150社で構成する団体として、アンケートを取った結果でございます。
 あくまでも全米販調べですが、令和5年産米の原料代・諸経費が前年同月に比べ増嵩した幅は、いずれも精米1kgあたり、原料代25.5~42.6円、輸送費1.3~1.7円、電力代1.0~1.3円、包装容器代1.2~1.6円、人件費0.8~1.2円と、合計29.8~48.4円となっております。
 結構な幅がありますのは、原料の幅もありますし、各組合員が各地域に広がっておりますので、各々の事情もあっての幅となっております。
 このほか農産物である米は、作柄や品質に気候の影響を大きく受けます。今年は記録的な猛暑で、平年より2~3℃高いと言われています。令和5年産米には、高温障害への影響が表れております。具体的には透明感の無い白色が目立つ「粉状質粒」が多くの産地で発生しています。その結果、玄米の外観で格付けされる等級仕分けで、最上級の1等米が少なく、次の2等米、そして今年は3等米の発生が非常に多くなりました。私どもの精米工程においては、これら見た目の悪い米は除去いたします。作業に要する時間や電力また除去される低品位米の多さから、例年に比べて精米コストが上昇していることも報告させていただきます。
 地域によって、高温障害の状況は必ずしも一定ではございません。特に日本海側、太平洋側でも差が出ていますので、一律ではありません。全体の傾向としては、米の仕入価格は上がっています。我々の諸経費については、これまで見向きもされない時期もありましたが、さすがにこのような状況になってまいりますと、この状況を皆さんにご理解いただかないといけません。食品関係で言うと、麦は別にしても、砂糖にしても、為替以外にコストが上がっているというのは、この時期でも値上げせざるを得ない。今後、数千品目の価格見直しがあると聞いております。米も実際には同じようであると、ご理解をいただきたいと思います。

【質疑応答】

 (河北新報)今回は具体的に言うと、価格転嫁の話になるのか。
 ――(木村理事長)実際に、価格交渉をするのは、我々の団体ではなく、所属をしている各米卸となります。ですから、我々が一斉に値上げをしろというのは、これは独占禁止法に触れますので、我々としてはそう申し上げられません。今の状況を聞き取りした結果を述べるというのが、我々の仕事になります。
 (河北新報)昨年度の反応は?
 ――(木村理事長)各卸がそれぞれの需要者、量販店と交渉する際の材料に使ったというのは聞いております。皆さんは「役に立った」と言ってくださいますが、昨年も数字に幅がありましたが、幅めいっぱい上げられたところは1社か2社。あとは半分以下の幅で、少しは認めていただいたところ。総じて、南の方は値上げすら認めてもらえなかったと、聞いております。前年産の米の残り具合や、生産者との交渉の中で、なかなか難しいところもあったのだろうと思います。

 (農業協同組合新聞)「業界団体にお届け」とは、手渡しか。
 ――(村上業務部長)一斉ですので、まず郵送させていただいてから、電話をしたほか、近いところにはお持ちする形でお渡ししております。
 (農業協同組合新聞)アンケートの回収率はどのくらいか。
 ――(木村理事長)7割ぐらいです。
 (農業協同組合新聞)増嵩は、前年比ではどのくらいか。
 ――(木村理事長)なかなか難しいですね(笑)。絶対値でいくらで売れたというのは分かっておりません。米の場合は「%」よりも、絶対額のほうが、価格交渉においても多いもので、このような集計にしています。
 (農業協同組合新聞)中央値はどんな感じか。
 ――(木村理事長)収穫がまだ終わっていないので、「うちはいくらですよ」とはっきり言われていないところもまだまだあります。特に、早いお米は段階的ですので、たぶん年末を過ぎると出てくるのではないでしょうか。

 (NHK)消費者物価で見ても、麦、麺類などは上がっている一方で、米は少なくとも令和4年産までは8月末まで上がっていない。この差は何があるのか。
 ――(木村理事長)流通の立場としては、仕入価格がどう変動するのかと、前年産の在庫状況がどうか、加えて今年度の作付面積がどのくらい減っているのかがファクターとしてあります。昨年度は、例えば1俵あたり500~1,000円ほどの値上げでも、5kgに換算すると微々たるものなので、実際に小売の団体、実需の段階で値上げを反映させるのが極めて難しかった。それは昨年だけではなく、過去にもありました。コストについては、消費者物価の値上がりの割には、賃金の上りが少ない中で、価格交渉力が大手の量販や外食に対して少し弱いところもありまして、ほとんど値上げはありませんでした。それから、前年産の米をどのくらい持っているのか、各卸によって在庫状況に違いがあり、末端で価格をどんどん上げるという状況から見ると、買い手から見ると弱腰な卸だったのではないかと思います。

 (NHK)今年の高温障害の影響で、白未熟粒がかなり割合が多かったことで、これが需給に与える影響は、実際、米卸の立場からどう見ているか。
 ――(木村理事長)まだ収穫が全部あがってきていません。総じて、日本海側のほうがちょっと厳しいねと。新潟については1等米が40%くらいと、今までの集荷段階で出てきています。宮城については逆に、今までの段階で見ると(1等が)「8割ぐらい」と出てきています。その他については出てきていないので、今のところなんとも言えません。

 (日本経済新聞)この資料を受け取った方の反応があれば、具体的に教えてほしい。
 ――(村上業務部長)まだ届いたところで、受け取らないというのはできないので、実際の感覚としては「理解しました」で終わっています。団体としても強制力を持って、というわけにはいきませんから、あちらはあちらで「会員に周知します」というところです。

 (日本経済新聞)高温障害でシラタの発生が多いので、店頭に並んだ時にシラタの目立ちが予想される。消費者にどのように具体的に説明されるのか。
 ――(木村理事長)今年はテレビでも米の話題が多い。平成19年(2007)にも同じようなことがありました。その時は生協さんが一斉に「今年はこういう状況です。召し上がっても味に差はありません」というPOPを各お店に出された。このようなことはお店にはお勧めしております。消費者の方に知らせるというのは、流通からは伝わりにくいので、生産者も含めて、もうちょっと理解を得るための活動をしていただきたいと、現在、対応しているところです。米が白いことを、「もち米が混ざっているのではないか」とか、「古米じゃないか」「別の県のものが混ざっているのではないか」と、昔はよく言われましたが、最近は無くなってきています。もう一つの資料、「今年の猛暑が米の品質に及ぼす影響」については、(一社)日本精米工業会に説明をしてもらいます。
 ――(《一社》日本精米工業会・武田法久常務)この資料は、会員の皆さん宛てに送っているものです。全米販さんは私どもの会員ですので、この資料を持って、組合員の人たちにお渡ししたとの経緯だと思います。資料に関しては、直接消費者に渡しているわけではなく、精米工場の人たちに「こんなことで注意してほしい」という文書になっております。
 ――(木村理事長)先ほどの生協さんのように、「味には変化がありません」と言うのと、「ほとんど変化がありません」との言い様もありますが、心配しているような違いはありません。それから「水加減はご自分で調整してください」とお伝えをしていくことになると思います。

 (米麦日報)全農宮城県本部の宮城米取扱説明会(10月6日)で、「製販が一体となって、この問題に取り組んでいきましょう」との呼び掛けをされていた。具体的に、全農との連携方法を検討をされているのか。
 ――今年、高温障害が出たというのは、気象もすごく変わってきているのではないかと思います。昨年も暑かった、今年は暑さからどうにも逃げられない感じでした。来年はもちろん分からないのですが、気象が大きく変わって、厳しいだろうなと見た時に、亜熱帯化しているというか、北海道でヒノヒカリが試験場で獲れたといった話が出てきているのが現在の状況です。米の消費量は毎年10万t減と言われていますが、本当に食べていないのか、他のものがあるから食べないのか、糖質制限の効果がどのくらいなのかは私たちも十分把握していないのですが、大きな転機を迎えたような気がします。これだけ作付面積も減り、気候変動もあり、需要も減っているなかで、今後、我々の安心をどうやって担保していくのか。この筋道を「横の製配販」で協力していかないと、「俺たちだけで相談しているぞ」というやり方では、もう難しくなってきているのではないかと。お互いの問題について、それぞれが支えあっていかないと、それぞれでやっていると、もっと高い米になって、もっと食べなくなる。コストの問題もあるし、本当に苦労している部分は何か、というのを理解していく。というような意味で、話をしました。
 (米麦日報)要請文書が奏功して末端価格に反映されたとして、消費に与える影響はどうか。
 ――(木村理事長)コストの動向というのは、待ったなしでないと、卸、流通はやっていけなくなる。全体としては、価格に与える影響と言うのは、原材料との組み合わせでお客様のところに行くので、その許容限度を超えれば消費が減るというのは、過去の例からも分かっています。ですので、これがそのような影響を与えないといいな、と思いながら、やはり実情として理解していただかないと、経営そのものが壁にぶち当たります。悲壮な思いです。

 (時事通信)10月13日に農林水産省が作況指数などを公表したが、その数字に対しての受け止めや実感との乖離があったのかどうかも含めてお伺いしたい。
 ――(木村理事長)作況指数はおよそ「100」となりましたが、「100」なのに値段が上がるのか、という実需者からのかなり強い一撃が来るかですよね。生産に関する資材、肥料などのコストは上がっていることは理解しないわけではないが、やっぱり「100」なのになぜ上げるのか、という疑問に対して答えたことになっていない。卸としては、自分たちの周りの個別の産地、生産者のことを把握しているので、聞いている限りにおいては、今年は、産地に対する理解に動いているところが多いと思います。それが実際に、実需にお伝えするというのは、なかなか苦労しています。下からは上がってくる、上からは抑えられるとなると、「続けられるかどうか」という話になるので、微妙なところでございます。
 (時事通信)米の現物市場「みらい米市場」は今日から開始される。ぶった農産を中心とした「グリーンテックマーケット」も12月以降に開始される予定だが、現物市場についてどういう見方をしているのか。
 ――(木村理事長)個人的な見解もあるかもしれませんが、ぶった農産が行う小規模な市場は、違いを認めてもらうところに、彼(佛田利弘氏)の発想の原点があったと思います。違いを認めてもらうというのは、セリが上がっていくこともあり得るという、物量だけではなくて、質で評価をするという発想で、すごく大事だと思います。これはそれなりに動いていく可能性があると見ています。みらい米市場は、今の時期は米が出てこないと思います。買いたいと入れても出す人がいない。反対に獲れすぎたときは、これは出すたびに価格が下がるのだから、出したくない。過去、国が主導した市場(コメ価格センター)でも、「安くなるから出さないよ」といった、同じようなことがあったと思います。ここは全米販としては様子を見させてもらうというスタンスでいきます。下がり一方、上がり一方であれば、この市場を利用する必要がありませんし、ここに先物など何らかが加わってくれば、大口の取引もしくは大口の生産者にとって、役に立つだろうと考えています。
 現物と先物、どっちが先か分かりませんが、連動しないと。要は、一辺倒で下がるか上がるかというのは、極端に言うと、今の状況と同じなのです。ですから、利用する意味がどうあるのかなは、様子を見させていただかないと分からないと思っています。

 (米穀データバンク)卸さんの話を聞いていると、コスト増について理解が浸透している感じがあると。相手先団体や業界の理解が進んでいるという考えでもよさそうな状況か。
 ――(木村理事長)理解は、程度の問題もありますが進んでいると思います。特に、小袋に入れた商品を販売するお店にとっては、品揃えという問題がありますし、いつまで経っても古米だけ並べていることもできないので、いずれ仕入して並べていかないといけないので、値上げもある程度受け入れながら、商品を購入していただくことになると思います。理解は少しずつ進んでいると思います。業務用はまだ分かっていません。コンビニは前年産を年明けまで引っ張っていくこともあるので、大口で契約しているところは、価格の変動は当面ないと思います。小袋を中心にやっているスーパーや量販は、少しずつ売り場の価格に反映してくるのではないでしょうか。今のところ、関東周辺ですが、店を見ていて、まだ令和4年産米を並べているところが多い。もう少し出揃ってきてから、評価をするのではないかと思っています。

 (商経アドバイス)価格転嫁が必要な情勢と、等級低下が重なっているが、農林水産省に対して団体として要請していくものは何か。農林水産省が採るべきものがあれば教えてほしい。
 ――(木村理事長)なかなか難しい質問。等級落ちは今回多く出るということなので、等級落ちがこれだけ出てくると生産段階に対して、何らかの手を打たなければならないというのが議論になってくると思います。一般の消費者向けで何か新しい手立てを打つというか、メッセージはたぶん発信していただけると思いますが、なかなかそれ以上に進むというのが難しい。結果として、等級落ちのものは等級格差になって、それだけ農家の収入が下がるわけです。それに対しての手当は農林水産省で。流通、販売の段階では、それに見合った価格をつけるということではないかと思います。
 もう一つは、今年は高温障害が出て、作況指数は「100」と出ているが、場合によっては県内の地域間でだいぶ違うだろうと思います。少しずつ価格が上がって需要が下がってくるという懸念もありますが、作付面積を減らしてきているわけですよね。全部があがってきたときに、それだけの収穫が出来ているのか、場合にっては収穫量が予想よりも下がって、タイトな状況が発生する可能性があるのではないかと思います。もちろん収穫が全てあがってこないと分からないのですが、経験的な懸念です。